箱入りヘッドホンアンプ(自作)の性能確認
箱入りヘッドホンアンプの性能確認をしました。若干の変更を行いましたが、基本はこれまで作って実績のある回路です。したがって、性能確認の主な目的は、発振や発熱などの危険な事象が発生していないことの確認です。
今回作ったヘッドホンアンプの素性
今回作成したヘッドホンアンプは、DCアンプです。このアンプは、DC(直流)から増幅することができます。しかし、使い方によっては、DCから増幅出来てしまうことが欠点となることもあります。例えば、入力側につなぐ機器からDC成分が入力されると、出力にDC成分が出てしまいます。DC成分がヘッドホンやイヤホンに出力されると、最悪の場合破壊されます。破壊まで至らなくても、振動版のストロークが制限されるため、音がひずみます。したがって、DCアンプにDC成分を出力する機器を接続のは危険です。DC成分を出力する機器は稀です。しかし、無いわけではありません。
しかし、DCアンプには魅力もあります。例えば、一部の楽曲では録音時の空気の動きを圧として感じることができます。そんな、音にならない圧を感じさせてくれるのがDCアンプの醍醐味です。
ヘッドホンアンプの回路について
回路は、二段の差動増幅+ダイアモンドバッファ+AB級プッシュプル電力増幅という構成です。帰還は出力端から取り出した信号を、一段目の差動増幅回路の反転入力端子に入れています。なお、増幅率は6.1倍、dB換算で15.7dBです。ヘッドホンアンプとしては、使いやすい増幅率だと思います。
一段目の差動増幅は抵抗負荷にしました。そして、二段目の差動増幅は、カレントミラー負荷としました。過去に、双方ともカレントミラー負荷としたアンプを作りました。しかし、位相余裕が確保できず、位相補償コンデンサーによる発振防止が不可欠でした。
個人的なこだわりで、信号経路には極力コンデンサーを置きたくありません。そこで、一段目の差動増幅回路を抵抗負荷にしました。これによって、位相遅れを減少させ、発振を防ぐことにしました。そして、二段目だけをカレントミラー負荷にしました。これにより、開ループ利得の確保と発振防止の両立を図りました。
二段の差動増幅で、二度の電圧増幅を行った後、信号はダイアモンドバッファに送り込まれます。このバッファ回路で、電力増幅回路をAB級動作させるためのボルテージシフトを行っています。また、インピーダンス変換をすることで、差動増幅回路のドライブ能力を補っています。
使用したトランジスタについて
使用したトランジスタはBC547BとBC557Bです。このトランジスタは、入手性が良く、価格も安い割にノイズが少なく、高周波特性も良い(fT=300MHz)優れものです。hfe(交流電流増幅率)も300程度あります。そのため、入力インピーダンスを高めた、感度の高い回路を作ることができます。実際に、かなりの個数を使っていますが、小電力のアンプに最適です。特に、出力インピーダンスが高い、差動増幅回路の出力を受ける部分に適しています。今回の回路では、二段目の差動増幅回路と、ダイアモンドバッファがこれにあたります。なお、電力増幅回路の熱暴走防止のため、hFEの差が±5以下になるよう選定しました。
性能確認 – 矩形波によるステップ応答を確認
先ずは、矩形波を入力端子に印加し、増幅された波形を観察します。
DCアンプですから、1Hzという低い周波数の矩形波でも乱れは見られません。まっすぐな線で構成された出力波形は、DCアンプならではです。
1Hzと同様に、10Hzの矩形波も見事に再現されています。
1kHzの矩形波では、信号の立ち上がり部分にオーバーシュートが見られるようになりました。
周波数を上げるにつれて、オーバーシュートが大きくなってきています。そして、100kHzまで上げると、オーバーシュートというよりも、リンギングと呼ばれる状況が発生していることが解ります。この現象は、遅れた信号が負帰還されることによって生じます。したがって、回路の応答速度を速くすれば解決します。例えば、二段目の差動増幅回路のカレントミラー負荷から抵抗負荷への変更です。しかし、これをやってしまうと、本来の目的である、開ループ利得の向上を果たせません。そこで、次善の策として、出力端子にスナバを入れれるのが常套手段でしょう。しかし、リンギング部分の周波数は、MHzオーダーの周波数です。したがって、可聴域から大きく外れ、聴感には影響しません。そこで、今回は対処せず、放置することにしました。
性能確認 – 正弦波
正弦波を入力した時の、出力波形を観察します。なお、ボリュームを固定して測定しましたので、周波数による出力振幅の増減も観察します。
1Hzから20kHzまで、振幅は、ほとんど変化しません。つまり、可聴域の周波数特性はフラットです。
500kHzまで周波数を上げると、わずかに振幅が増加します。
500kHzあたりで増加し始めた振幅は、1.5MHzあたりでピークを迎えます。
そして、2.5MHzあたりで元の振幅に戻ります。つまり、1.5MHzを頂点として、500kHzから2.5MHzあたりまで振幅の山があるようです。この傾向は、LTSpiceでのシミュレーションでも出ていました。
性能確認 – 直線性とスルーレートの確認
つぎに、直線性を確認するために三角波と階段波の増幅波形を見てみます。
三角波の増幅波形に歪みは見られません。したがって、信号レベルによる増幅率の変動は無いことが解ります。
階段波は若干オーバーシュートが見られます。しかし、各段の段差と、段の横幅は揃っています。したがって、三角波の結果と併せて、増幅の直線性は確保できているといえます。
次にスルーレートを計測してみます。
振幅変化の中央90%にかかる時間を計測し、スルーレートを算出します。計測の結果、118nSで796mVの変化でした。これをμ秒あたりに換算すると、6.7V/μSとなりました。この値は、オペアンプNE5532と同等です。ただし、NE5532は電源電圧±15Vでの値です。したがって、電源電圧±4.5Vで計測した、このヘッドホンアンプの方が実質的には優れていると思います。可聴域の増幅であれば、スルーレートは1V/μSでも十分です。したがって、今回作ったヘッドホンアンプは、優れた性能を有しているといえます。
なお、消費電力は,アイドル状態で180mW程度です。したがって、006P型電池で20時間程度は稼働できると思います。
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