改良したら最高のヘッドホンアンプになりました
改良したら最高のヘッドホンアンプになりました。
今回の改良で、ヘッドホンアンプは私なりのゴールに到達したと感じています。これを機に、なぜヘッドホンアンプを作ってきたのか、そのきっかけから振り返ってみたいと思います。
改良の目的
今回の改良の目的は、ボリューム位置による音質変化を少なくすることです。この改良は、私的な事情によるものです。ヘッドホンアンプの入力ソースとなる機器が普通の機器なら今回の改良は不要です。また、ボリュームを非常識な位置まで上げなければ音質変化は生じません。したがって、今回の改良は普通は必要ありません。しかし、気が付いてしまったので改良せずにはいられませんでした。
なぜボリューム位置で音質が変化するのか?
私が、ボリュームに使用している可変抵抗器の抵抗値は50kΩです。つまり、ボリュームツマミを操作することで、抵抗は0~50kΩの範囲で変化します。そして、アンプ回路の入力部分とグランドの間には抵抗器が設置されています。この抵抗は、アンプの動作を安定させるために必要です。特にDCアンプの場合、これが無いと出力オフセット電圧が大きくなります。DCアンプでない場合でも、出力信号のクリップが発生しやすくなる可能性があります。
ボリュームを絞った時の入力インピーダンスはボリュームそのものの抵抗50kΩです。しかし、ボリュームを上げていくと入力インピーダンスは下がり始めます。ボリューム最大では、アンプの入力インピーダンスは、入力端子の抵抗値になります。
安物ほど使用条件は厳しい
私が使用している安価な再生機器は、コンデンサを介して信号を出力しています。そして、再生機器のコンデンサとアンプの入力抵抗によってハイパスフィルターが構成されます。再生機器の出力コンデンサが十分大きければ問題はありません。また、アンプの入力抵抗が十分大きい場合も問題はありません。しかし、残念なことに安物の再生機器に大きなコンデンサは搭載されていません。ですから、アンプの入力抵抗を大きくする必要があります。そうしなければ、ハイパスフィルタの効果で、低域が瘦せていきます。そして、ボリュームを上げる程アンプの入力抵抗は下がり、音は更に痩せていきます。
今回の改良点
今回の改良点は、①非反転入力のグランド抵抗、②反転入力のグランド抵抗、③負帰還抵抗です。
入力部のグランド抵抗は、小さすぎるとボリューム位置による音質変化が大きくなります。しかし、大きすぎると出力オフセットが大きくなったり、ノイズを拾い易くなったりします。今回は、MP3デコーダーに接続し、音質低下が気にならないギリギリを現物合わせで見つけました。
なお、反転入力端子と非反転入力端子のグランド抵抗は、同じ値にしました。今回の回路は電流帰還型ではありませんので、反転入力の抵抗が音質に与える影響は無いはずです。しかし、実際に聴いてみると抵抗値が揃っていない場合、音にザラつきが感じられました。したがって、グランド抵抗は5.1kΩで統一しました。これに合わせ、増幅率確保のため、帰還抵抗を変更しました。増幅率は33kΩ/5.1kΩ+1で約7.5倍、デシベル換算で17.5dBです。
実際に鳴らした結果
素晴らしいの一言です。当初、入力抵抗を大きくしたことによる、出力オフセットの上昇が懸念されました。しかし、実測したところ、最小で0.4mV、最大でも10mV程度でした(周囲温度によって変動します。)。この値は、これまでオペアンプを使用して制作したものと同等かそれ以下です。そして、電源投入時のポップノイズは僅かにしか聞こえません。出力カップリングが無いにも関わらずです。
低域から高域まで呆れるほどフラットな特性は、リファレンス級と言っても差し支えないでしょう。また、理論上無限大のダンピングファクターにより独特な世界が形成されます。ダンピングファクターが低いアンプで得られる、低域のふくよかさは皆無です。また、艶やかな高域も無い世界です。ですから、万人向けのヘッドホンアンプではありません。しかし、原音に忠実で、ある意味無味乾燥な出力信号は、表現をヘッドホンやイヤホンに委ねます。つまり、ヘッドホンやイヤホンの真の設計意図や実力をさらけ出すヘッドホンアンプです。
なぜ執拗にヘッドホンアンプを作ってきたのか
これまで約二年、色々なヘッドホンアンプを作ってきました。その発端はたった120円で買ったMP3デコーダーでした。イヤホンをつないでみましたが、出てきた音はスカスカで、聞けたものではありませんでした。そこで、ヘッドホンアンプのキットを購入し、組み立て、鳴らしてみました。これが、最初です。
キットを組み立て、鳴らした結果は素晴らしいものでした。同時に、インピーダンスマッチングが如何に大切かを痛感しました。
オペアンプ沼にハマる
この当時は、設計ツールもなく、知識もありませんでした。そして、一部の熱狂者を真似てオペアンプを差し替えて、音質の違いを楽しんでいました。しかし、オペアンプによる音の違いは、あったとしても僅かであることに薄々気づいていました。それでも、一個数千円もするオペアンプを購入したりもしました。音に差が無くても素晴らしい音だと自分に言い聞かせていました。しかし、次第に値段や評判に流されるのに嫌気がさしてきました。そして、興味はオペアンプそのものから離れて行きました。
ClassAA回路の再現にハマる
そんな時、昔所有していたアンプに表記されていたClassAAの表記を思い出しました。調べてみると、ClassAAアンプは、電力増幅部を0dBアンプとし、ノイズや歪みは電圧増幅部で消す仕組みです。これって何のことは無い、普通のアンプです。しかし、出力から電圧増幅に帰還すると大抵の場合発振します。ClassAAでは発振を起こさないように、ホイートストンブリッジを使います。これにより、電力増幅部の出力と、電圧増幅部の出力の差を電圧増幅に帰還する仕組みです。素晴らしいように感じますが、実は出力端から帰還していません。また、当時私はオペアンプを使用していましたので、ダンピングファクターをコントロールすることはできませんでした。
不遜な言い方ですが、ClassAAアンプは発振を起こさずに、出力に近い場所(出力端ではない場所)から帰還させる苦肉の策です。歪みを抑えることはできます。しかし、ダンピングファクターはやや低めに設定するしかありません。つまり、アンプとして最善ではなかったはずです。恐らく、現代でClassAA回路を採用している機器は無いと思います。これが答えではないでしょうか。
オペアンプの限界を感じて、電力増幅部を外付けに
オペアンプは、内部回路の素子数の多さも相俟って、位相遅れが生じます。その結果、オペアンプでの増幅を二段重ね、二段目の出力を一段目に帰還すると発振します。また、一部のオペアンプは貫通電流対策の抵抗が出力部分に入っています。これにより、出力を大きく取れません。また、ダンピングファクターは低くなります。これを解決するために、オペアンプの後段にトランジスタの電力増幅部を外付けにしました。
トランジスタで組んだ電力増幅部を付加することで、出力を大きく取れるようにしました。また、この回路は発振することなく出力端から帰還することができます。つまり、理論上のダンピングファクターを無限大にできます。
クロスオーバー歪みの克服
電力増幅段は、オーソドックスなプッシュプル回路としました。しかし、プッシュプル回路では、信号が振幅する度に+側と-側トランジスタの切り替えを生じます。この切り替えにタイムラグがあります。このタイムラグの間は両方のトランジスタがOFFになり、一瞬出力信号が無くなります。これが、スイッチング歪またはクロスオーバー歪みとなって音を濁します。実際には濁すというレベルではなく、音を破壊するといった方が良いレベルです。バリバリと破壊されたような音が出てきます。
クロスオーバー歪みを消すために、+側-側双方を一瞬同時にONにします。これを、AB級動作と言います。これを実現するために、音声信号を+側と-側にシフトした二つの信号を作り、トランジスタに送ります。こうすることで、無信号となる状態を無くし、クロスオーバー歪みを消すことができます。
トランジスタ焼損事故続発
当初は、シフトした二つの音声信号を作るのに、教科書通りダイオードを使用していました。しかし、ダイオードとトランジスタは僅かではありますが特性が異なります。特に、温度に対する特性の変化が異なります。
夏場など周囲温度が高くなると、素子の特性は変化します。これにより、+側と-側のトランジスタが同時にONになる時間が長くなります。すると、同時にONになった二つのトランジスタを通じて、+電源から-電源に電流が流れます。これを貫通電流と言います。貫通電流はトランジスタを発熱させます。この発熱により、特性変化が加速され、貫通電流の発生時間は更に長くなります。これにより、最終的には貫通電流によってトランジスタが燃えます。この現象をトランジスタの熱暴走といいます。
熱暴走を発生させないバイアス回路を作る
プッシュプル回路のAB級動作は、バイアスの作り方がキモです。ダイオードはトランジスタと特性が僅かに異なるので、焼損事故を防ぐことは困難です。もちろん、+側と-側のトランジスタの間に、抵抗を入れることで焼損を防ぐことはできます。しかし、抵抗を入れればその分ダンピングファクターは下がります。そこで、より精密なバイアス回路で焼損を防ぐ方法を探りました。
この検討で、成績の良かったバイアス回路をしばらくの間使用していました。しかし、後に更に良いバイアス回路を見つけることができました。それは、LT1364というオペアンプの等価回路を解析して見つけ出しました。LT1364はこれまで使用してきたNJM4558やNE5532等とは異なる、電流帰還型のオペアンプです。したがって、等価回路はそれまで見てきたものとは大きく異なっていました。それは、簡潔で美しいものでした。その中でも、目に留まったのはエミッタフォロワでのバイアス生成でした。まさに目からうろこでした。以後、バイアス回路はLT1364からパクった回路を使用しています。
興味はオペアンプからディスクリートへ
しばらく、オペアンプを使用したヘッドホンアンプを作っていました。しかし、オペアンプでは隔靴掻痒に感じる部分がありました。その一つが、電源ONの瞬間に発生するポップノイズです。例えば、NE5532やOPA2132,OPA2134ではポップノイズは発生しません。しかし、私の大好きなオペアンプNJM4558やNM4580はポップノイズが大きめです。
ポップノイズは不快ですし、イヤホン・ヘッドホンに悪影響があるかもしれません。4558系のオペアンプのポップノイズは過負荷保護回路兼定電流回路によるものです。しかし、オペアンプに内包されている回路ですから、取り外すわけにはいきません。もちろん、ディレイをかけたリレーやSSRで回路が安定してから出力させる手法もあるでしょう。しかし、音声信号の増幅に寄与しない部品を信号経路に置きたくはありません。その他、一部のオペアンプを除いて、オフセットの調整もできません。ディスクリートなら、これらの問題点を解決することができます。
そこで、オペアンプの使用をやめ、ディスクリートでヘッドホンアンプを作ることにしました。
そして現在に至る
ディスクリートなヘッドホンアンプの製作はなかなか楽しいものです。最初こそ、右も左も分からない状態でした。しかし、一石の電流帰還バイアス回路の設計を皮切りに失敗を繰り返しながらここまで来ました。途中、表計算ソフトを使った設計ツールを作ることで、自分なりの正解を見つけました。特に、苦手だった差動増幅回路については、ネット上に落ちていた回路を真似ることから始めました。そして、現在では差動増幅回路についても勘所がつかめ、結果に満足しています。今回改良したヘッドホンアンプは最高の出来です。そして、私なりのゴールに到達できたと思っています。
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