オペアンプ LT1364を研究する
オペアンプLT1364を深堀してみました。LT1364は発信しやすいオペアンプで、個人的には苦手なオペアンプです。しかし、スルーレート1000V/μSというスペックは非常に魅力的です。それ以外にも、ノイズの少なさや、消費電力の少なさ(発信しなければ)も魅力です。近代的なオペアンプですが、珍しく等価回路が公開されてみます。等価回路を元に、ディスクリートで真似できないか、検討もしてみました。
近代的なオペアンプ LT1364
データシートのコピーライトは1994年となっていましたので、恐らくLT1364のリリースはそのあたりだと思います。
それでも、30年前の製品です。しかし、普段使用しているRC4558やNE5532は、デビューから半世紀が過ぎようとしています。そんな、ポピュラーなオペアンプに比較したら、十分近代的なオペアンプです。とても高性能なオペアンプですが、入手性は良く、値段も500円程度で入手できます。
オペアンプ LT1364の等価回路図を見てみる
最近は等価回路図が公開されていないオペアンプも多くなりました。しかし、LT1364はデータシートに等価回路が掲載されています。では、早速等価回路図を見ていきましょう。
LT1364は、差動入力回路を使用しない、電流帰還型オペアンプです。このため、通常の差動入力回路で信号を受けるオペアンプとは、大分様子が異なります。また、反転入力と非反転入力で、信号の受け方が異なっているのも電流帰還型オペアンプの特徴です。では、要所ごとに見ていきましょう。
LT1364等価回路図を要所ごとに見ていく
この回路図をみて、簡潔で美しいと感じました。そして、特徴的なのは、回路図の上半分と下半分が対象となっていることです。一目で合理的な回路構成だと感じました。以前、等価回路を解析してみたμA741よりもずっと洗練されています。
先ずは、反転入力から見てみましょう。入力信号は①のエミッタフォロワで、バッファリングとボルテージシフトを済ませています。入力電圧+Vbeと入力電圧-Vbeの二つに分けられた信号は。②のプッシュプルをAB級動作させ、R1を介して非反転入力回路に送られます。
非反転入力信号は、③でバッファリングとボルテージシフトを終え、④に送り込まれます。④は②と同じプッシュプル回路のように見えます。しかし、ここは⑤と⑥を電流源としたコモンエミッタ増幅回路になっています。④で信号の位相が反転しますので、⑨と⑩で再度位相反転増幅することで、位相を戻しています。⑦と⑧は定電流源且つ⑤と⑥の電流量を決めるカレントミラーのソースにもなっています。
二回の反転増幅を経た信号は、⑪でボルテージシフトを行い、⑫のプッシュプル回路をAB級動作させています。
⑫のプッシュプル電力増幅は、貫通電流対策抵抗を設置していません。潔い回路構成です。
苦手だけど簡潔で巧みな回路構成が好き
これまで、LT1364を何度か使ってきました。しかし、発振には随分と悩まされました。しかし、等価回路図は簡潔で美しいです。また、出力部分に発信防止のためでしょうか、スナバが設けられています。しかし、スナバだけでは収まってくれない発振もあります。しかし、この発振対策は出力部分だけで完結しています。多くのオペアンプで行われているように、入力へのフィードバックは行われていません。電流帰還オペアンプであるLT1364は、スルーレート1000V/μSという驚異的な性能となっています。
オペアンプ LT1364をディスクリートで再現できるか?
オペアンプをディスクリートで再現するのは難しいです。今回のLT1364ではカレントミラーを使用しています。また、定電流源も多用しています。特に、カレントミラーは同一のチップ上に作り込まれ、特性が揃ったトランジスタを、熱結合した場合に正しく動作します。しかし、ディスクリートで制作する場合には、特性はバラバラですし、熱結合は中途半端です。また、定電流源を作るのも骨の折れる作業です。そこで、LT1364の等価回路を簡略化して、ディスクリートで動作する回路を組んでみようと思います。
LTSpiceでの検証
LTSpiceで検証するにあたって、カレントミラーは排しました。また、定電流源は電源電圧を12Vに固定することを前提に、抵抗器に置き換えました。シミュレーションの結果、発振が見られましたので、負帰還抵抗と並行に10pFのコンデンサを設置しました。このコンデンサの値は経験に基づいて決めました。したがって、もうすこし追い込むことも可能でしょう。
出力波形は、オフセットも少なく、ノイズレベルは-100dB程と、低いレベルです。
高調波歪みに関しては、奇数次の高調波が目立ちます。三次の高調波歪みは-40dBくらいですので、パーセンテージに直せば1%程度です。数値的には結構厳しいです。しかし、この辺りがディスクリートの限界なのかも知れません。
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